昨年12月の自炊代行訴訟は、被告のうち一社はサービス終了、もう一社は4月27日に認諾を選び、争点を手付かず残したまま終わった感があります。一方で同日に「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」がリリースした著作憲法改正案試案は、「海賊版」と名指しされた自炊代行と、作家ではなく出版社が争えるようになるもののようです。初の自炊代行訴訟が残した争点は、火種のままくすぶり続けるのではなく、遅くともこの改正案が通ればその時にもう一度問い直されることになるように思います。
■2011年12月の初の自炊代行訴訟
- 逆の明文化となるか:東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図 - 電子書籍情報が満載! eBook USER(2011.12.20) - 浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名が「スキャンボックス」を提供する愛宕と、「スキャン×BANK」を提供するスキャン×BANKに、原告作品群に対する複製行為の差し止めを求めて提訴
- スキャン×BANK、スキャン代行サービスを終了へ - 電子書籍情報が満載! eBook USER(2012.02.07) - スキャン×BANKがスキャン事業停止、係争状況は不明
- 提訴されていたスキャン代行業者が訴えを認める「認諾」を選択 - 電子書籍情報が満載! eBook USER(2012.05.01) - 愛宕が訴えを認諾の上、スキャン事業停止
スキャン×BANKは係争状況不明。事業停止により差止め要求事項が満たされてしまいましたが、この場合どうなるんでしょう。愛宕は3月9日に第1回弁論準備手続き、第2回が4月27日に予定されていたものの、同日、正式に請求の認諾を選択。
愛宕は認諾にあたり、「訴訟の認諾に関するお知らせ」を公開しており、これは以下の3項からなっています。
- 請求の認諾に至った経緯と理由(訴訟の経緯、愛宕の本業への支障、左記理由による認諾)
- 愛宕の主張の概要(「著作権法30条1項により私的使用のための複製として認められる」「原告らの本件訴えは権利の濫用に該当し、許されない」)
- 終わりに(愛宕の代表取締役三谷純の本件についての『感想』と『思い』)
この裁判は、原告7作家と被告2社の問題というより、この自炊代行業者に共通する「主張」を争点として、どんな裁定が下されるかが注目されていたものだと思います。その意味では、争点の整理はあった(争点について合意があったのかまではよくわからない)ものの、ついに争われずに終わった感があります。
■2012年4月の著作憲法改正案の試案
これで結論が出ないままかというと、先日報じられた「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」による著作権法の改正試案を見ると、少なくともこれが通過すれば今度は出版社が原告となって訴訟しようという内容に見えます。
作家、出版社と超党派の国会議員らで構成する「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(座長:中川正春衆院議員)はこのほど、電子書籍の普及に向けた著作権法の改正試案をまとめた。出版社に電子書籍の複製やネット送信、貸与を認める「著作隣接権」を付与することを柱としつつ、作家側の声にも配慮して、いったん出版社に与えた権利を著作権者(作家)が引き揚げることも可能とすることなどを盛り込んだ。[...]勉強会には超党派の議員のほか、作家では阿刀田高、林真理子、三田誠広の各氏が、また角川グループホールディングス、講談社、集英社、新潮社、小学館、文芸春秋といった大手出版社の社長や会長などがメンバーとして参加。
( 「電子書籍」普及へ著作権法改正案を初公表、作家・出版社・国会議員ら:日本経済新聞)
勉強会の概要と、この試案を含む第三回勉強会議事録が「公益財団法人 文字・活字文化推進機構」にあります。
議事概要に添えられた「(仮)出版物に関わる権利」試案によれば、権利の内容は次のようになっています。
(1)複製権
出版者は、その出版物原版を複製する権利を占有する。
(2)送信可能化権
出版者は、その出版物原版を送信可能化する権利を占有する。
(3)譲渡権
出版者は、その出版物原版をその複製物の譲渡により公衆に提供する権利を占有する。
(4)貸与権
出版者は、その出版物原版をそれが複製されている商業用出版物の貸与により公衆に提供する権利を占有する。
日経新聞によれば、これにより「出版社への権利付与により、海賊版の電子書籍が出現した際に、出版社が差し止め請求や損害賠償請求などの対抗措置を行えるようにする。従来は出版社に権利がなかったため、作家が個人で提訴するなどの必要があり、海賊版が広がる一因となっていた」とのこと。またここでいう「海賊版」については、議事概要中に次のような文言があります。
(仮)出版物に関わる権利は、出版サイクル円滑化(知の拡大再生産)と自炊代行業者などの海賊版対策に一定の効果が期待できると思われ、現状において最も妥当な選択肢の1つであると思われる。
つまり、出版社は各著作権隣接権を「占有」し、「自炊代行業者などの海賊版」対策として、出版社が差し止め請求や損害賠償請求などを行えるようになるということです。
■自炊代行の争点の行方
初の自炊代行訴訟は、前述の通り争点を残したまま終わった感があります。しかし素人考えながら、この改正案試案が出されたことで、少なくとも次のようなタイミングで再びこの争点が問い直されるのではないでしょうか。
- 試案の国会提出まで。日経新聞によれば、「勉強会」は早ければ6月の国会提出に向け、「たたき台となる改正試案を初めて公表することで議論を巻き起こし、法改正とその先の電子書籍ビジネス本格展開への道筋を早期につけたいという意向もありそう」とのこと。
- 国会での著作権法改正案の審議。
- この形の著作権法改正案が通過した場合、その後の出版社による自炊代行事業者の提訴。
ここまで来ると、今の「なんとなくの線引きすら見えないグレー」のままではなく、何らかの(できればよい形の)結論は出てほしい、というのが正直な感想です。

最近のコメント